平凡な私がホストになった話②~出勤初日~

はじめに

私は大学4年の夏の間だけ、歌舞伎町のホストクラブで働いていた。この経験から多くのことを学んだので、忘れないうちに文字として残そうと思う。5回くらいに分けようかな。今回はその2回目、出勤初日のことを書こうと思う。

挨拶が命

ホストは挨拶に厳しい。これは店によるかもしれないが、私のところは特に厳しかったと思う。

出勤したら、ひとりひとりに

源氏名+(さん or 役職名)+ おはようございます」

と挨拶する。

営業後も同様に

源氏名+(さん or 役職名) + お疲れさまでした」

と挨拶する。

例えば、代表の源氏名が豪炎寺の場合、

「豪炎寺代表代理おはようございます!」

と挨拶する。

相手の名前を覚えていないときはピンチだ

「#$%&’‘+*?さんおはようございます!!」

とごにょごにょ言って乗り切るしかない。出勤初日は50回くらいごにょごにょ言った。

また、先輩とどこか出かけた際は、その場とLINEと翌日会ってすぐの計3回お礼を伝える。お礼マジ大事。

挨拶を忘れるとブチ切れが発生するため、絶対に忘れてはいけない。死んでも忘れてはいけない。

初めての営業

ホストの接客パターンは主に3つある。

  1. 担当:姫の本指名として、姫の隣に座る。王子ともいう
  2. 初回:初めてお店に来たお客様に数分席に着き。指名がもらえるようアピールする
  3. ヘルプ:担当と姫のサポート役。キューピット兼ピエロ

最初の一週間は、研修期間のためヘルプのみを行う。当然指名のお客様はいないし、初回のお客様の席にも着けない。

初回に着けないのは少し残念だったが、ヘルプでもやらなければいけないことが多すぎて、頭はパンク寸前だった。

特に、テーブルマナーに気を配りながらお客様と会話することに苦労した。テーブルマナーが体に染みつくまで、まともな会話すら難しい。

テーブルマナー

テーブルマナーとは、ホストがテーブルで行うドリンク等に関する所作やルールである。

例えば

  • 姫の飲み物は常に氷パンパンにする
  • 姫が飲み切る前に次を足す
  • 姫のグラスの周りに水滴がつく前にグラスを拭く
  • 飲み物を撹拌するときは半時計周り(時間がゆっくり過ぎるようにという思いを込めて、時計と逆向きに撹拌する。諸説あり)
  • おしぼりは三角に折り、立てて並べる

など、書き出すとキリがない。とにかく、喋りながら常に手を動かす。

ちなみに、おしぼりを三角に折る人と店員さんを呼ぶときに「お願いします」という人は2億%夜職経験者である。

ヘルプの極意①~タブーの質問~

テーブルマナー以外にも、接客のルールはいくつかある。その中でもホスト側からは絶対にしてはいけない質問が二つある。

一つは「年齢」を聞くこと。もう一つは「職業」を聞くことだ。

有名ホストクラブでこの質問をしたら、即クビでもおかしくない。ちなみに、この質問は一般社会でも初対面では聞かない方が無難らしい。もし知りたかったら、相手が勝手に言ってくれるのを待つしかない。

ヘルプの極意②~大きな音を出せ~

ホストクラブは店内のBGMがとにかく大きいため、常に声を張って話さないといけない。私は声が小さいため、最初のうちは何度も聞き返された。泣きたかった。

また、笑うときは喜んでいることをアピールするために手を叩きながら笑う。私は急な大きい音が苦手なので、「手を叩いて笑う人」に今まで苦手意識を持っていた。しかし、私はホストになるために、苦手だと思っていた「手を叩いて笑う」人にならないといけなかった。泣きたかった。

ヘルプの極意③~オーバーすぎるリアクション~

大きな音を出すことと近いが、大きなリアクションをとることも大切だ。私は普段のテンションは低い方なので、普段の20倍のテンションでいるようにした。お酒がないと相当厳しい。

初出勤の日、体格の大きな40歳前後のお客様が来店したが、その方はホストを笑わせることに楽しさを見出しているようで、ひたすら「ド下ネタを言うミッ〇ーマウス」というネタを披露していた。笑えないレベルの下ネタで、私は顔が引きつっていたが、王子(担当ホスト)は大きな笑いを演出しながらソファで笑い転げていた。

私も瞬時に満面の笑みに切り替え、お腹を抱えながら床を転げまわった。

カルチャーショック

なんとか初日の営業を終えると、時計は深夜2時を過ぎていた。先輩達(といっても2ヶ月差程度)が焼肉に誘ってくださり、私は快諾して焼肉店に向かった。そこでは圧倒的なカルチャーショックを受けた。

大盛ライスに箸を刺す人。ふざけて七輪の上に何重も生肉を重ね、高さ10cmの生肉タワーを作る人。焼肉を食べ終え、お店を出ると、目の前を横切るネズミを蹴飛ばす人もいた。今まで見たことない光景に、まるで夢でも見ているみたいだった。帰り道はある一人の先輩と一緒で、その先輩は雰囲気が落ち着いていたので、安心して歩いていたら、タバコを吸っては道に捨て、吸っては道に捨てを繰り返していた。なんとも複雑な気持ちになったが、「自分たちは歌舞伎町のヘンゼルとグレーテル」と思い込むことでなんとか気持ちを落ち着かせた。よかった。これで道に迷わない。

初日から文化の違いを目の当たりにし、カルチャーショックを受けたが、先輩たちは私の面倒をよく見てくれた。本当に感謝している。

さいごに

ホストの業務もそれに関わる人達も、自分にとってあまりに新鮮だったが、1週間もするとすぐに慣れた。

今ままで自分が関わってきた人は本当にごく一部で、外の世界には様々な人がいることを痛感した。海外に住むと価値観が破壊されるというが、ホストでも手っ取り早く破壊できたので、普段の自分では絶対に行かない環境に飛び込むことも大切だと思った。

次はシャンパンコールの話と初めて指名されたときの話を書こうかな。